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【特集】3Dマトリック Research Memo(3):中国での販売パートナー候補先との交渉が始まる

3DM <日足> 「株探」多機能チャートより

■業績動向

(2)吸収性局所止血材(TDM-621)の地域別取組み状況と今後の計画

a)欧州地域
欧州市場では、販売契約交渉を候補先企業3社と継続して進めている状況にある。契約締結に至っていない理由としては、販売実績データの不足が主な要因として挙げている。スリー・ディー・マトリックス<7777>では、国内での販売提携先が比較的早い段階で決まったことから※、欧州においても同様に早期の締結ができると考えていたが、実績データ等の一定以上の積み上げが課題となっている。

※国内では2010年1月から治験を開始したが、2009年7月に扶桑薬品工業<4538>と契約を締結している。

欧州での臨床実績は前期末で約120の医療施設において約900件の臨床件数となっている。同社の止血材はCEマーキング※を2014年に取得しており、対象領域は心臓血管外科領域における血管吻合部の止血、外科領域における血管並びに臓器切除術の際の止血、消化器内科領域における内視鏡的手術の際の止血と3つの領域になっている。約900件の臨床件数の内訳としては、心臓血管外科手術で6割強、内視鏡的手術で3割強となっており、臓器出血領域における臨床件数は僅少となっている。臓器出血領域の症例件数が少ない理由は、同社や代理店の営業リソースが限られるなかで、まずは心臓血管外科手術や内視鏡的手術の領域において実績を蓄積してから、臓器出血領域へ展開していく方針となっていることが挙げられる。同社では今後も販売実績を積み重ねることで、これら3社との交渉を進めていく意向だが、臓器出血領域においては症例実績の積み上げに時間を要しそうなことから、適用領域を心臓血管外科や内視鏡的手術、また後述する内視鏡的手術後の後出血予防用など、適応領域を絞った格好で販売契約を締結する可能性もあり、契約締結の時期としては2018年4月期を目標としている。契約締結による契約一時金としては、従来と同じく2,000百万円を見込んでいる。

※EU加盟国で医療機器を流通させるために製品への表示が義務付けられている安全規格に適合していることを示すマーク。EU加盟国以外でも日米を除く多くの国で採用されている。

こうした状況を踏まえて、欧州では各国の販売代理店を通じた販売体制を構築し、売上拡大に注力している。2015年にはスイス、ドイツ、フランス、英国、デンマーク、フィンランドにおいて現地代理店と契約し、2016年に入ってからスペイン、イタリア、バルカン地域などにも展開、2016年4月末時点で合計14社と代理店契約を締結し、医療施設への営業活動を開始している。また、近日中には北欧やポルトガル、ギリシャなどで新たに6社と契約を締結できる見通しで、これによりEU地域をおおむねカバーできる体制となる。また、販売先となる医療施設数については2016年4月の約120施設から、2017年4月末には250施設、2018年4月末には500施設を目標に拡大していくこととなる。

欧州向けの売上高計画としては、2016年4月期の28百万円から2017年4月期は294百万円、2018年4月期は約1,800百万円、2019年4月期は約3,800百万円を見込んでいる。

なお、これとは別に新たな適用領域として、内視鏡的手術後の後出血予防用としての需要が立ち上がる可能性が出てきている「内視鏡術後の創傷治癒及び術後出血予防」に関する臨床効果についての学術論文が日本、フランスで相次いで発表され、現地での関心が急速に高まってきたためだ。同論文によると、慶應義塾大学附属病院において食道、胃、大腸の内視鏡的粘膜下層剥離術を受けた100例以上の患者に「PuraMatrixR」を使用し、良好な結果が得られたとしている。欧州では内視鏡手術後に約5~20%の割合で術後出血があり、創傷治癒の遅延や治療部位の症状悪化によって、再入院するケースもある。患者のQOLの維持や医療費・医師の負担軽減なども含めて、術後出血予防に対する潜在的なニーズは高いと思われる。こうしたことから同社では「PuraMatrixR」の適応領域を内視鏡手術後の出血予防まで拡大するため、CEマーキングの登録申請を実施しており、2017年4月期中にも承認登録される見込みとなっている。

欧州市場における止血材市場は年間約1,000百万ドル程度とみられ、このうち消化器内科の需要は14.6%程度と同社では推定している。現状、消化器内科の内視鏡手術において止血材はなく、止血方法としては電気的な焼灼止血処置が一般的に普及している。同社は同領域において止血材としての販売開拓を行っている段階にあるが、今後、術後出血予防材としてCEマーキング承認が得られれば、同用途での販売も開始する方針となっている。潜在需要は同領域における止血材の需要とほぼ同程度の規模が見込めることになる。また、同用途での承認が得られれば、販売パートナー契約の実現性が高まるものと弊社では見ている。

その他、同社では日本の医療機器メーカーと共同で幅広い術式に対応するアクセサリーデバイスの開発も行っている。既に、内視鏡手術専用の塗布デバイスに関して前期にCEマーキングを取得し販売を開始しているほか、腹腔鏡用塗布デバイスについても直近でCEマーキングを取得し、2017年4月期より販売を開始する。その他にも出血範囲の広い臓器出血用途向けを狙ったスプレーデバイスも開発しており、CEマーキング申請予定となっている。こうしたアクセサリーデバイスを同時に提供することによって、止血材の使い勝手も格段に向上し、販売拡大につながることが予想される。

b)アジア・オセアニア地域
アジア・オセアニア地域についてはCEマーキング適用国において製品登録申請等を行い、また、販売提携なども進めながら売上を拡大していく計画となっている。2016年4月期に香港、インドネシア、シンガポール、マレーシア、オーストラリアで販売を開始しており、売上高としては52百万円を計上した。このうち、販売パートナー契約を締結したオーストラリア、インドネシアのパートナー向けの初期ロット販売で44百万円を占めている。2017年4月期の売上計画は172百万円、2018年4月期は約700百万円を計画している。2017年4月期に関しては、韓国で第3四半期にCEマーキングでの製品登録承認が得られる見通しとなっており、販売パートナーであるDaewoong社向けの初期ロット販売と、マイルストーン収益50百万円を計上する見込みとなっている。

また、販売パートナーの中では、オーストラリアのMaquet社の動向が注目される。ドイツに本拠を置く世界有数の医療システム・医療機器製品プロバイダーであるMaquetグループのオセアニア地域を統括する会社であり、その販売ネットワークも広いためだ。当初から同社の止血材を高く評価しており、販売する医療施設も外科領域だけでなくだけでなく、耳鼻科向けにも広げるなど積極的は販売展開を行っている。オーストラリアでの販売状況が良ければ、グループ本社のある欧州でも有力な契約候補先となる可能性があると弊社では見ている。

その他、今回は新たに中国での販売パートナー候補先との交渉が始まったことも注目される。既に複数社と交渉を進めているもようで、販売契約締結後に治験を進めていく予定となっている。契約締結の時期は早ければ2017年4月期中となる可能性もあるが、今回の業績計画では、2018年4月期に契約一時金600百万円を織り込んでいる。中国は潜在市場も大きいだけに、今後の動向が注目される。

c)中南米地域
中南米についてもCEマーキング適用国において製品登録申請等を行い、また、販売提携などを進めながら売上げを拡大していく計画となっている。チリで前第4四半期より販売を開始したほか、2017年4月期の第2四半期からブラジル、第3四半期からメキシコでそれぞれ現地代理店を通じて販売を開始する予定となっている。なお、コロンビアについては製品登録を終えているものの、経済情勢が悪いこともあって販売時期は未定となっている。その状況からも、2017年4月期の売上計画は30百万円で、中期経営計画最終年度となる2019年4月期でも100?200百万円と大きな伸びは見込んでいない。

d)日本
国内においては2015年3月に製造販売承認申請を取り下げ、現在はより精度の高い治験を2017年4月期中に開始するべく、PMDA(独立行政法人医薬品医療機器総合機構)との協議を継続して行っている状況にある。適用領域は前回と変わらず、「血管並びに臓器からの滲出性出血」「血管吻合部からの滲出性出血」「内視鏡的手術における滲出性出血」となっている。

当初は2016年4月期中の再申請、2017年4月期第1四半期の治験開始を目指していたが、症例数や評価方法等の詳細を確定するまでの協議が長引いたことで、再申請提出時期が2017年4月期にずれ込むこととなった。症例数については前回の治験で97症例だったが、今回は比較試験を実施するため100~200症例程度の範囲で落ち着くと見られる。再申請時期は早ければ当第2四半期頃となる見通しで、年内には治験を開始したい考えだ。PMDAとの協議次第で申請時期が遅れる可能性はあるものの、順調に進めば治験期間で9ヶ月程度、平均審査期間で15ヶ月程度と見られることから、最短で2019年初め頃に販売承認が得られる可能性がある。業績面では2019年4月期の業績計画において、販売承認取得に伴うマイルストーン収益で約900百万円、製品販売で約900百万円を見込んでいる。

e)北米地域
米国ではIDE申請(治験計画届に相当)に伴うプロトコル設定に関する協議を継続している状況にある。前回レポートでは協議は最終段階を迎えていると述べたが、その後、FDAより非臨床データの追加データを再度要請されたようで、治験開始時期が先送りされた格好となっている。追加データを要請された理由としては、「止血効果について客観的な評価基準を区分設定することを求められたため」としている。この区分設定を行うため、改めて止血効果の客観的評価基準を自社で設定し、動物実験を行うこととなった。動物実験によるデータ収集には少なくとも半年程度の時間を要することから、治験開始は早くても当第4四半期頃となる見通しだ。また、今までのFDAとの協議状況を考えれば開始時期が来期にズレ込む可能性も考えられる。今期中に治験が開始できたとすれば、治験期間は1年程度、審査期間は6ヶ月程度を要するものとみられ、承認取得の時期は早くても2019年春頃となる。業績計画においては2019年4月期に販売契約一時金で2,100百万円を見込んでいる。

また、カナダについてはCEマーキング適用国であり、医療製品登録申請を既に提出している。2017年4月期中の登録承認を目指しており、承認取得後に販売代理店を通じて販売を開始することが予想される。

(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)

《TN》

 提供:フィスコ

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