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【経済】【フィスコ・コラム】原油価格は夏場以降に再び安値圏推移か


6月2日にウィーンで開催された石油輸出国機構(OPEC)総会では主要産油国間で需給改善に向け歩調が合わず、物別れに終わりました。これを受け、世界的な供給過剰懸念が再び浮上し、原油価格は2016年後半に下落に向かう可能性が出てきました。春先以降持ち直したかにみえたのも束の間、金融市場のリスク要因として注視する必要がありそうです。


主要産油国は今年4月17日、カタールの首都ドーハで原油安に歯止めをかけるため、増産の凍結を目指し原油市場安定化に向けた会合を開きました。OPEC加盟国や非加盟18カ国は、サウジアラビア、ロシア、カタール、ベネズエラの4カ国がすでに暫定合意していた増産の凍結に関し協議しましたが、経済制裁を解除されたばかりイランが拒否。このようにドーハでの協議が難航したため、6月2日のOPEC総会では増産凍結に向けた生産調整が模索されていましたが、今回も合意は見送られました。


4月のドーハ会合後、供給過剰が解消されないにもかかわらず原油価格は持ち直していきました。期待が高まっていた連邦準備制度理事会(FRB)の利上げと日銀の追加金融緩和がともに見送られ、ユーロ選好地合いとなってドルが相対的に弱まり、割安感から原油に買いが入ったためだとみられます。これをきっかけに原油価格はしっかりの値動きとなり、米原油先物ウェスト・テキサス・インターミディエート(WTI)は2003年以来、13年ぶりの安値となった2月の26ドル台から足元は50ドル付近と2倍近くの水準に切り返しています。


原油価格は年前半に上昇傾向を示しても、年後半は一転して下落基調となることがあるようです。例えば、2008年のリーマン・ショックの年が顕著でしたが、昨年もそうでした。2015年の年明け以降、原油価格は1バレル=45-50ドルを中心レンジに推移した後、5-6月は60ドルまで上昇しましたが、その後は軟調地合いとなり、年末は30ドル台前半まで下落。米大手証券は2016年中には20ドル割れと予想していました。需要サイドと供給サイドの双方の問題は依然変わっておらず、今年も昨年と同じような展開になる可能性があります。


需要サイドの問題点として真っ先に挙げられるのは、エネルギー消費大国である中国の経済に明るさが戻っていないことです。今年に入っても、中国の経済指標は前年を割り込むケースが多く、先行きの不透明感が深まったままです。昨年はよく聞かれた「中国経済の減速懸念」はもはや当たり前すぎて誰も言わなくなったようですが、やはり世界経済の原動力が活発にならないと、回復には向かわないでしょう。


米国経済にも不透明感が広がり始めています。特に、6月3日に発表された5月の雇用統計では、非農業部門雇用者数の伸びが2010年9月以来という低水準にとどまりました。連邦準備制度理事会(FRB)のイエレン議長は「他の雇用関連指標については楽観的」としていますが、実際にはそれほど楽観視できる材料は見当たりません。ただ、幸いにも、今回の雇用統計によって早期利上げ観測が遠のいたため、ドルは下落する可能性があります。それが原油の下値をサポートするかもしれません。そうでなければ、まさに「火(金融市場の混乱)に油」でしょう。

吉池 威

《MT》

 提供:フィスコ

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