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【経済】市場予想の斜め上を行くドラギマジック


ドラギ欧州中央銀行(ECB)総裁が先週末に打ち出した追加緩和策は、(1)金利の引き下げのみならず、(2)月間の資産購入額を600億ユーロから800億ユーロに増額増額、(3)ユーロ圏内の金融機関以外の企業が発行する投資適格級ユーロ建て債券を買い入れ対象に追加、(4)新たな長期資金供給オペ(TLTRO2)の実施、というパッケージで、全体として市場の予想を大きく上回る大胆なものだった。
 このサプライズに反応して、発表後のマーケットでは株などのリスク資産が買われ、株価や新興国通貨が大きく上昇した。
 しかし、この政策発表後の会見で、ドラギ総裁が「一段の金利引き下げが必要になるとは思わない」と発言したことを受けて、株価は急反落、上昇分を全て失いさらに大幅に下落するという過激な反応をみせた。市場は今後の追加緩和が否定されたと解釈したようだ。
 ドラギ総裁の発言に対しては、「最後の一言で全てを台無しにした」とか「口先介入に長けたドラギ総裁にしては信じられない失敗だ」との批判が向けられることとなった。
 しかし、ドラギ総裁は「金利の引き下げ」が必要になるとは思わないと言っただけで、「追加緩和」を否定したわけではない。もともとドラギ総裁は追加緩和について「「利下げを含め」、あらゆる手段を検討している」と述べていた。今回の会見でも、「様々な政策手段を組み合わせて相乗作用を利用する」と述べている。「利下げの否定」=「追加緩和の否定」ではないのである。
 ではなぜドラギ総裁はわざわざ今回「利下げの否定」発言を行ったのか。それは利下げによって苦しむ銀行への助け舟なのである。欧州の銀行は利下げによって収益低下懸念が生じ、株価も大きく下落していた。今回のECBのパッケージはもとよりデフレ対策という表の顔もあるが、仔細にみれば欧州の金融機関の信用リスクを低下させるという目的もはっきりうかがえる。利下げの打ち止め感を出す発言もその一環で、欧州の金融機関の収益懸念への歯止めを意図したものとみられるのである。
 総合的にみると、ドラギ総裁の政策と発言は、金融機関へ配慮しつつ市場予想を大きく超える緩和策を打ち出したものと評価でき、これまでで最高レベルのドラギマジックということができる。
 ECBの追加緩和策の中身と緩和スタンスは改めて評価されるべきである。
《YU》

 提供:フィスコ

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