市場ニュース

戻る
 

【特集】ヘリオス Research Memo(5):アサーシスの幹細胞製品MultiStemを使った脳梗塞治療薬の上市を目指す


■開発パイプラインについて

(2)体性幹細胞再生医薬品

体性幹細胞再生医薬品としては、アサーシスの幹細胞製品MultiStemを使った脳梗塞治療薬の国内での上市に向けた開発を進めていく。2016年中に臨床試験に入り、3年程度をかけて条件付き早期承認制度による承認申請を行いたい考えだ。順調に進めば2020年頃に上市できる可能性があり、ヘリオス<4593>の開発パイプラインでは最も早期に収益化が期待できる製品となる。

アサーシスの開発した製品は急性期脳梗塞の治療に用いられるもので、MultiStemを静脈注射で投与することで、脳梗塞発症部における炎症や免疫反応を抑えて神経細胞の二次損傷を抑制する効果があるほか、種々のサイトカインや増殖因子を放出することで神経保護作用を促進する効果が期待できる。また、同治療薬では免疫抑制剤が不要なほか、冷凍保存による長期保管が可能、1回の投与により治療効果が得られるといった特長を持つ。

2016年2月にアサーシスが米国で発表した国際第2相臨床試験の長期(1年)成績によれば、発症後48時間以内に投与された患者群とプラセボ群の中で、優れた回復症状の条件※に該当する患者の比率を調べた結果、MultiStem投与群で23.1%、プラセボ投与群で8.2%となり群間差は14.9%と、90日間のデータ結果である群間差8.8%を大きく上回る結果となり、長期経過で見てもMultiStemの有効性が認められる結果が示された。なかでも36時間以内の投与患者に限ってみれば、群間差は20.8%とさらに拡大する結果となっている。統計学的有意性を示す指標であるp値についても5%以下という基準値に対して、48時間以内の患者群で2%、36時間以内の患者群では1%以下となり、統計学的有意性においても十分な結果が示されている。

※優れた回復症状を示す指標として3つの代表的指標を用いている(mRS1以下、NIHSS1以下、BI95以上)。mRSは概括障害度、NIHSSは神経症状障害度、BIは日常生活動作指標を指し、これら3つの指標で一定基準以上を示した患者を優れた回復症状を示した患者としてカウントしている。

アサーシスでは今回の結果発表を持って、今後はより有意性が明確となっている36時間以内を基準とした治療薬の臨床開発を続けていく方針を示しており、同社においても同様の条件によって臨床試験の申請準備を進めていく予定となっている。

現在、急性期の脳梗塞治療法としては血栓溶解療法やステント等を用いた機械的血栓回収療法があるが、血栓溶解療法は発症後4.5時間以内、機械的血栓回収療法は同8時間以内の治療法であり、時間的な制限が短いほか脳内出血のリスクもある。医療現場では「治療できる時間がより長い新薬の開発」が待ち望まれており、同治療薬が上市されれば脳梗塞の治療法に大きな変革をもたらすものとして期待されている。

脳梗塞の発症患者数は国内で年間23~33万人で、このうち重度の患者数は13万人、このうち36時間以内に医療機関に搬送される患者数は6.2万人と同社では推計している。薬価を仮に300万円程度として試算すれば、潜在市場規模は2,000億円弱程度になると弊社ではみている。脳梗塞に対する年間医療費は回復までの治療費も含めて年間1兆円を超えており医療財政の負担にもなっていることから、社会的意義といった面でも期待は大きいと言えよう。

なお、MultiStemのライセンス契約に当たって、同社はアサーシスに対して契約一時金15百万ドル(120円/ドル換算で18億円)、開発段階に応じてマイルストーンとして最大30百万ドル(同36億円)を支払い、上市後は販売額に応じて10数%のロイヤルティを支払う契約となっている。このため、上市までは費用が先行することになるが、上市されれば市場規模が大きいだけに収益化は十分可能とみられる。

また、MultiStemに関しては神経、心血管、炎症、免疫系の疾患領域を適応症として現在、6つの臨床試験をアサーシスで実施している。このうち、同社は急性呼吸促迫症候群(ARDS)※と他1件について、開発販売のオプション権を取得している。ARDSに関しては動物実験での良好な結果が得られているという。

※ARDS…呼吸不全(肺機能不全)の一種で、肺の液体貯留が生じ、血液中の酸素濃度が異常に低下する救急治療を要する疾患。重度の場合、人工呼吸器が必要となる場合もある。

(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)

《HN》

 提供:フィスコ

株探からのお知らせ

    日経平均