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【特集】ファーストブラザーズ Research Memo(2):自己勘定投資も行う不動産私募ファンドのアセットマネジメント会社


 

■会社概要

(1)沿革

不動産私募ファンドのアセットマネジメント(以下、AM)会社。事業の安定性、拡大を図るために自己勘定投資を拡大中。現代表取締役社長の吉原知紀氏は旧三井信託銀行、モルガンスタンレーを経て2004年2月にファーストブラザーズ<3454>設立。辻野和孝(つじのかずたか)取締役も旧三井信託銀行、モルガンスタンレー出身で、不動産鑑定会社を経て、2006年2月に同社に合流している他、堀田佳延(ほったよしのぶ)取締役、自己勘定投資を担う100%子会社のファーストブラザーズキャピタル(株)の鹿野太一(かのたいち)代表取締役社長も旧三井信託銀行出身であり、キーマンには旧三井信託銀行出身が多い。また、取締役には、不動産証券化法務の第一人者であり牛島総合法律事務所パートナー弁護士の田村幸太郎(たむらこうたろう)も名を連ねる。2015年2月東証マザーズ上場。

(2)事業概要

投資運用事業と投資銀行事業の2セグメント体制。2012年11月期までは、IT事業子会社を通じて社内システム開発の他、一部外販も行っていたが、2012年7月に同子会社株式を売却しIT事業からは撤退した。

a)投資運用事業
国内不動産を対象とした私募ファンドのAMを行う。厳格な運用体制構築のため2011年12月にAM事業を100%子会社のファーストブラザーズ投資顧問(株)に分割した。

エクイティ投資家は国内外の機関投資家。運用期間の定めはないが、ノンリコースローンの期間は通常5年で平均的な運用期間は3年程度。ファンドのタイプはインカム重視のコア型、コアプラス型ではなく、キャピタルゲイン重視のバリューアップ型ないしオポチュニスティック型。投資対象のアセットタイプは流動性重視の観点からオフィス、商業施設、レジデンスが中心。特にバリューアップの余地が大きい商業施設を得意とし、銀座や表参道の都市型商業施設、ベッドタウンの駅前再開発案件、郊外の大型ショッピングモールなどに投資してきた。投資エリアは首都圏中心に一部地方主要都市。物件規模は最低30~40億円以上とし、数百億円台まで手掛ける。事業会社や他の私募ファンドからの取得が多く、ほとんどを相対取引で取得できている。足元では100億円超の大型物件はREITなどとの競合が激しく取得が難しい状況。

AM会社にはAMフィーの獲得のためAUMを積上げる方向にインセンティブが働きやすく、無理な物件取得をしたり、適切な時期に売却を行わなかったりすることで顧客投資家と利益相反を起こす可能性がある。アップサイドの余地が乏しくなった物件を、売却タイミングを逃して長く保有した場合に、インカム・ゲインによるエクイティ・マルチプル(エクイティ投資額の何倍になったかという投資回収率)は上昇したとしても、時間価値が考慮されたIRR(内部収益率)が低下するほか、市況が下落した際のデフォルトリスクもあることは考慮すべきである。このため同社は市況に応じ最適なタイミングで売買を行い、顧客投資家の利益最大化を図ることを追求している。こうした運用姿勢が、顧客投資家との継続的な取引につながっている。また、リーマンショックによる金融危機でもデフォルトさせたファンドはなく、これがリーマンショック後にレスキュー案件を多く受託することに寄与した。

ファンドのAUMは2015年11月期末570億円(前期末比318億円減)と減少傾向。不動産市況が高値圏にあるとの認識から物件売却を推進した一方、物件取得競争が過熱する中、高値での無理な取得を行わなかったことによる。物件取得が少ないのは、投資家の資金が集まらないからではなく、目線の合う物件取得が難しい環境であるため。顧客投資家の待機資金は潤沢である。

b)投資銀行事業
同社が組成したファンドへのセイムボート投資と不動産への自己勘定投資が中心。PE投資(債権投資、事業再生投資、ベンチャー企業投資)、再生可能エネルギー関連投資や、M&Aにかかる助言などのアドバイザリー業務にも展開している。

不動産の自己勘定投資を本格的に開始したのは2014年から。2015年2月のIPOにより手取り資金約30億円を得て手元資金が潤沢になったため自己勘定投資を加速している。安定収益である賃料収入の拡大を主な目的とし、中長期保有を前提とするが、適宜入替を行うため固定資産とはせずにすべて販売用不動産に計上している。通常、販売用不動産は減価償却を行わないが、財務健全性のため減価償却を行う保守的な会計処理を採用している。

私募ファンドとの利益相反を避けるため、投資対象はファンドのクライテリアから外れたおおむね10億円前後の小型の賃貸不動産としている。首都圏郊外の駅前の商業ビルの投資が多いという。10億円前後の物件は流動性が高く投資機会が豊富で、再生流動化を手掛ける上場不動産会社などと物件取得で競合することはほとんどないという。

取得先は個人の資産家が多い。個人所有物件は、総じて充分な管理がなされず、その不動産が本来持つ実力を充分に発揮できておらず、バリューアップによるNOIの改善余地が大きい。基本的には中長期保有するが、入替も行いキャピタルゲインも追及する。

2015年11月期末の不動産の自己勘定投資残高は、取得価格ベースで157億円(前期末比121億円増)。1物件当たり平均取得価格約10億円。バリューアップ後の想定NOI利回りは7.4%。現在の市況で取引される不動産の平均的なNOI利回りよりも数%程度高く、数十億円程度の含み益がある計算になる。

セイムボート投資とは、私募ファンドのエクイティ投資家とリスクを共有する姿勢を示すために行うもの。2015年11月期末のファンドのAUM約570億円のうちセイムボート投資を行っているファンドのAUMは約80億円。同社の出資額は4.1億円でエクイティに占める出資比率は平均で約20%。今後組成するファンドについては顧客投資家の意向にもよるが、20~30%をめどにエクイティ出資する方針。

(執筆:フィスコ客員アナリスト 堀部 吉胤)

《YF》

 提供:フィスコ

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