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【特集】イグニス Research Memo(4):2015年9月期は増収減益となったが、4Qでは大きく業績が回復


■決算動向

(1)2015年9月期決算の業績

イグニス<3689>の2015年9月期の業績は、売上高が前期比18.1%増の2,419百万円、営業損失が38百万円(前期は561百万円の利益)、経常損失が148百万円(前期は545百万円の利益)、純損失が306百万円(前期は309百万円の利益)と増収ながら大幅な減益となり、営業損失に陥った。ただ、8月13日の修正予想に対しては、売上高、利益ともに上回る着地となっており、第4四半期でのネイティブソーシャルゲームの伸びが巻き返しに寄与した。第4四半期だけでみると、売上高が1,299百万円(前年同期比76.1%増)、営業利益が274百万円(同29.9%増)と大きく伸長しており、営業黒字に転換している。

ジャンル別の売上高では、「無料ネイティブアプリ」と「全巻無料型ハブリッドアプリ」が大幅に落ち込んだものの、第3四半期に「ぼくとドラゴン」が順調に立ち上がった「ネイティブソーシャルゲーム」が大きく伸びたことで増収を確保した。

損益面では、開発スタッフの増強などによる人件費や地代家賃等の固定費が増加したことに加えて、「ぼくとドラゴン」に係る広告宣伝費及びプラットフォーム手数料の増加により販管費が大きく拡大したが、増収により吸収するには至らず営業損失に陥った。特に、年間を通じて「無料ネイティブアプリ」と「全巻無料型ハイブリッドアプリ」が低迷したことにより、固定費の増加分を賄えなかったことが営業損失の最大の要因と考えられる。一方、広告宣伝費やプラットフォーム手数料は、下期(特に第4四半期)に大きく増加しているが、これらは「ぼくとドラゴン」の売上拡大に連動した費用として捉えるのが妥当である。

財務面では、総資産が僅かに減少した一方で、自己資本が純損失の計上により大きく減少したことから自己資本比率は62.8%(前期末は74.0%)に低下した。ただ、依然高い水準を維持している。なお、流動資産が減少しているのは、本社増床に伴う設備取得及び敷金の差し入れ、中・大規模アプリ開発に伴う先行投資により現金及び預金が減少したことによる。一方、固定資産の増加は、本社増床に伴う設備取得や敷金の差し入れのほか、ネイティブソーシャルゲームの開発に伴うソフトウェアの増加などによるものである。

ジャンル別の業績は以下のとおりである。

「無料ネイティブアプリ」の売上高は前期比49.7%減の725百万円であった。これまでの小規模アプリ中心から、中・大規模アプリの開発へと移行を進める中で、小規模アプリ31本(前期は47本)、中規模アプリ8本(前期は2本)、大規模アプリ2本(前期はなし)と合計41本(前期は49本)をリリースした。しかしながら、そのうち中・大規模アプリの7本(コミュニケーション系)については運用型サービス※1として収益貢献のタイミングが後倒しになっていることに加えて、これまでの収益源であった小規模アプリの収益化の難易度が上昇傾向にあること、小規模アプリのリリース数が少なったことがMAUの低下を招いたことで減収となった。2015年9月期末のMAU(海外を含む)は565万(前期末は771万)と低下したうえ、そのうち、広告単価の低い海外MAUの比率が相対的に高まっていることも広告収入の減収要因となっている。なお、中規模アプリの残り3本についてはカジュアルゲームであり、そのうち「breaker(ブロック崩し)」は、リリースから20日間で50万DLを達成するなどヒットタイトルとなっている。

※Apple Inc.及びGoogle Inc.の2社のプラットフォーム運営事業者へ支払う手数料(課金売上高の約30%と推定)

「全巻無料型ハイブリッドアプリ」の売上高は、前期比84.0%減の41百万円と大きく落ち込んだ。第2 四半期までに、メガヒット作品である「全巻解禁!キャプテン翼、地獄先生ぬ?べ?、JIN- 仁-、ビン?孫子異伝? by グランドジャンプ」(2015年3月22日に配信終了) を含め、ストア型3 タイトルをリリースしたが、無料コミックアプリの一般化などに伴い、想定よりもユーザー数が伸びなかったことが大幅な減収を招いた。

一方、「ネイティブソーシャルゲーム」の売上高は、前期比372.6%増の1,652百万円と大きく伸長した。前期の唯一のタイトルである「ぼくとドラゴン」が第3四半期で順調に立ち上がるとともに、その後も継続運用により大きく伸長したことが増収に寄与した。一方、コスト面では、課金売上に対するプラットフォーム決済手数料※に加えて、ユーザー数の拡大を図るための広告宣伝費が大きく増加している。ネイティブソーシャルゲームの構成比の上昇による収益構造の変化にも注意が必要である。

弊社では、2015年9月期の業績が一旦後退する格好となったのは、内部要因(小規模アプリから中・大規模アプリへの移行)と、外部要因(小規模アプリにおける収益化の難易度が上昇)の両方が重なったことにより、「無料ネイティブアプリ」の売上高が想定を大きく下回って落ち込んだことが主因とみている。したがって、見方を変えれば、外部要因の影響を受け難い運用型アプリ(中・大規模アプリ)への方針転換は、合理性のある経営判断と言えよう。一方、販管費が大きく膨らんでいるのは、業績拡大に向けた先行費用(人件費や地代家賃、広告宣伝費等)や変動費(プラットフォーム手数料)の増加によるものである。したがって、2015年9月期については、同社が大きく飛躍するための仕込みの時期と位置付けるのが妥当であろう。また、ネイティブソーシャルゲームの「ぼくとドラゴン」が長期にわたる安定収益の柱に育ったことは大きな成果であったと言える。

(執筆:フィスコ客員アナリスト 柴田 郁夫)

《HN》

 提供:フィスコ

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