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【特集】伊藤忠エネクス Research Memo(5):総電力販売量における小売販売比率を高める


■各事業部門の動向

(3)電力・ユーティリティ事業

電力・ユーティリティ事業はこれまでも安定的な業績推移を示してきたが、2016年4月からの電力小売り全面自由化によって今後は“安定的な成長”が期待されることになる。伊藤忠エネクス<8133>は中期経営計画においても、エネルギー企業としての強みを最大限に活かして電力事業を持続的成長可能な事業へと育成することを、大きな目標として位置付けている。今下期は来年4月のスムーズな立ち上がりに向けて、準備作業が本格化することになる。

日本の電力事業は長らく一般電気事業者(いわゆる電力会社)の地域独占体制が続いていたが2000年から順次、販売が自由化され、現在では特別高圧分野と高圧分野について自由化されている。これは日本の電力市場の約63%を占めている。2016年4月からは日本の電力量の37%を占める低圧分野が自由化される。

同社は2010年から電力販売に進出した。当初は卸売の比率が高かったが、次第に小売の比率を増やし、2016年3月期には総電力販売量1,700GWh(ギガワット)のうち1,000GWh(59%)を小売販売する計画を立てている。2016年3月期第2四半期実績は338GWhで、前年同期の170GWhから倍増させた。このことは今第2四半期の最も大きな注目点と弊社では考えている。第2四半期で338GWhを達成したことで、今期の目標達成が見えてきたと弊社では期待している。小売販売を高める理由は明確で、卸売に比べて価格が安定し、かつ収益性も高いためだ。

同社の業界内での存在感も増している。小売電力量の総合計の比較では2位グループだが、同社がフォーカスする高圧分野だけに絞ると単独2位でトップとの差もかなり縮小する。電力小売事業の本命市場の低圧分野において、どこまでシェアを伸ばすか注目される。

今下期における最重点施策は、バランシング・グループ(BG)の組成だ。電力供給事業者にとって運営上の最大の課題は、電力需要の変動に対する対応だ。これを1社ではなくグループで対応することでリスク軽減と効率性を両立するのがBGの大きな狙いだ。その中で同社は、自社電源と需給バランス調整ノウハウを有していることからBGリーダーとしての機能と責任を果たす一方、需要家PPSの販売力を活用して電力販売量を拡大する、というのが同社にとってのBG戦略ということになる。すなわち、同社にとってBG戦略というのは販売戦略と同義ということになる。

BGメンバーである需要家PPSには、同社のLPG事業、石油事業に関するグループ企業は言うまでもなく、グループ外の企業や、エネルギー産業以外の業種の企業も想定されている。需要家PPSに求められるのは、顧客ネットワークや販売力であり、相乗効果を生み出すポテンシャルは、必ずしもエネルギー関連企業同士と限定されるものではないからだ。電話やCATVなどの通信系企業とのコラボレーションがイメージしやすいが、他にも住宅や流通・小売りなど、相乗効果を狙える業種・事業者は数多い。

同社が目指すのは総合的なエネルギーサービス企業として質と規模をさらに発展させることだ。現状では、同社が扱うエネルギーの中で、電力の成長性が高く、市場としては小口販売市場がいよいよスタートするので、同社を含めた全員がここに注目している、という状況だ。したがって将来的には、外部環境の変化によってこうした路線が変更される可能性もある。重要なことは、そうした変化に対応できる懐の深さがあるか、という点にあるというのが弊社の理解だ。弊社では、同社がBG戦略に基づく小口向け電力小売事業において一定の成功を収めることが、同社の目指す強いエネルギーサービス企業になるための重要な一歩になると考えている。

(執筆:フィスコ客員アナリスト 浅川 裕之)

《HN》

 提供:フィスコ

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