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【経済】一尾仁司の「虎視眈々」:16年の見方を巡る攻防


〇答えはないが、16年の見方を巡る攻防に徐々にシフト

米銀上位10行の総資産11.5兆ドルに対し、資産運用会社上位10社の運用資産額が20.7兆ドルと、ほぼ倍に達したという。リーマンショック後の金融緩和が長期化し、余剰マネーが運用機関に集まる構図が続いている。銀行が規制強化となり相対的に縮小しているのに対し、「先進国相場」が運用競争を支えている。

別の側面で見れば、貸出競争を通じたバブル相場は生じ難い反面、成長資金が上手く回らず、低成長下での資産価格上昇(とくに、中央銀行の買いで債券バブル)相場となる。これは、銀行と運用機関のリスク許容度の差(損失が出た場合、銀行は自己資本の欠損につながるが、運用機関は顧客に分散される)によるものと考えられている。

16年もこの構図が持続するかどうかが、最大の課題となる。運用機関にとって利上げ環境は、債券急落は困るが、ユックリとした金利上昇は運用利回りの上昇につながるので、相場の波動で受け止め方は大きく異なる。今のところ、米利上げはユックリとした展開を行う方向にあり、急変を招くリスクは、中国混乱の封じ込め策で回避できる見通しだ。

ただし、資産価格は短期債市場がマイナス金利に陥るなど、限界感も出ている。株高を支える企業収益にも不透明感がある。15年はBRICs市場からの資金引き揚げ、商品相場などからの資金流出が代表的な流れとなったが、16年に壊れる市場は今のところ見当たらない(中国やサウジなど産油国の政府系ファンド資金縮小が続く可能性が最も高いと見られる)。時々、急落する高原状相場になり易い。

昨日の黒田日銀総裁の記者会見は、「現状維持」の姿勢が色濃く、金融政策は現状維持が精々で、出口を求める力が無いことを印象付けた。今年の中国波乱のような短期的急変に備える姿勢と受け止められる。元々、アベノミクスは「民間資金の活用」がテーマであり、成長軌道を求めて、不十分な賃上げの実行などを要求する姿勢だ(直接関係はないが、台湾でも賃上げが焦点になり、米国でも失業率より賃金動向に関心が集まる世界的な流れにある)。必然的に、派手ではないが、先進国企業の着実な収益拡大、成長分野の育成が焦点となる。日銀に、白川時代から実施している成長分野融資の成果を問うて欲しかったところだが、成長政策の工夫、呼び水的な財政出動の是非、TPPなどの広域経済圏制度の行方などが注目点と考えられる。

為替市場は短期的急変を招きやすいが、米GSは16年もドル高基調継続見通しを、デンマーク・サクソバンクの運用責任者は「アベノミクスは失敗、必要なのは円高」との見方を示したことが話題だ。このところ、金融機関の為替見通しは当たらないが、ポジション・トークを交えて、水面下の駆け引きは激しい。多少、ドル高場面があったとしても、基調は安定的に推移するかどうかが、16年相場の焦点の一つと考えられる。

答えが出難いのは、米国の行方が不透明なためだ。思ったほど次期大統領候補が絞り込まれず、中東情勢、難民問題、TPPなど様々な分野でオバマ政権の迷走が続くリスクがある。中長期的展望より、四半期ラリーの積み重ねが中心となろう。

出所:一尾仁司のデイリーストラテジーマガジン「虎視眈々」(11/20号)

《FA》

 提供:フィスコ

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