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【特集】ボルテージ Research Memo(2):テーマを絞り込み、ストーリー性のあるモバイルコンテンツに特化


 

■ボルテージの特徴と強み

(1)ボルテージの特徴

ボルテージ<3639>の事業モデルはモバイルコンテンツ・サプライヤーとして、スマートフォンなどの携帯端末向けにコンテンツを配信し、その情報料を利用者から得るというものだ。業界構造として、情報料回収は通信キャリアやSNS事業者等のプラットフォーム運営者が代行してくれるので、同社自身はコンテンツメーカーとして企画・開発・制作のみに注力することができる。

同社の最大の特徴はそのコンテンツ戦略にある。同社はコンテンツのテーマを「恋愛と戦いのドラマ」に絞り込み、ストーリー性のあるモバイルコンテンツに特化した事業を行ってきた。19歳から44歳の女性を対象にした同社の独自調査では、スマートフォンユーザーの43%がほぼ毎日ゲームをしているという回答を得たほか、5人に1人は恋愛ゲームをしたことがあると回答している。また、約24%が恋愛ゲームに興味があると答えており、女性における恋愛ゲームの認知度が高く、市場として妙味があることが確認できている。

同社は恋愛ドラマアプリの草分けとしてランキング上位に多数の恋愛ドラマアプリを送り込んでおり、この分野では圧倒的な強さを誇っている。ヒットを左右する要因として、1)キャラクター、2)ストーリー、3)ゲーム要素(特にF2P型アプリの場合)の3点があるが挙げられるが、一言で言えば、これら3つの要素すべてにおいてツボを押さえたアプリ制作ができている点が、現在の同社の成功につながっている。同社は、コンテンツディレクターが社内で抱えるシステムエンジニア、デザイナーなどの人材と外部のイラストレーター、シナリオライターなどを適宜使うことで制作に臨んでいる。そうした現場では、女性ユーザーが好むキャラクターやシチュエーションについて年代別の違いも含めてデータの蓄積を進め、顧客のツボを外さない努力を絶えず行っている。また、ストーリーの点では“マルチエンディングストーリー”策も同社の強みにつながっている。マルチエンディングストーリーとはアプリの進め方や選んだ選択肢によって結末が異なるもので、ユーザーが感情移入しやすい状況の醸成に貢献している。こうした地道な積み重ねこそが、安定的に恋愛ドラマアプリのヒットを生み出している。

同社は国内向けの日本語版恋愛ドラマアプリでの成功を受けて、1)英語圏女性に向けた恋愛ドラマアプリの海外展開、2)男性もターゲットに据えたサスペンスへの市場拡大と、新たに2つの方向へ展開中である。海外展開を進める根幹には、これまで培ってきたノウハウを活かしてターゲット市場の拡大を目指していこうという戦略があり、恋愛ドラマアプリに対する需要は日本国内(あるいは日本人)だけにとどまらないはず、という信念が強力な推進力となっている。また同じようにサスペンスアプリについても、現在ほぼ100%が女性ユーザーとなっている恋愛ドラマアプリの他に、男性をいかにユーザーとして取り込むかと考えたときに、同社の強みを最も活かせそうなかたちとして挙がってきたものだった。

詳細は後述するが、英語版恋愛ドラマアプリは、おおもとの日本語版の人気・競争力の高さもあって、ランキングの上位に複数のタイトルが食い込んでいる。一方、サスペンスアプリはこれまでのところ苦戦が続いており、今後の立て直し策の帰趨が注目されるところだ。

(2)ボルテージの強み

同社の強みを一言で表現するのは難しい。しかしそれを探るうえで非常に興味深いデータがある。それは販路別売上高の推移だ。2008年6月期、2009年6月期の頃はNTTドコモ<9437>を筆頭に携帯キャリア向けの売上高が中心であった。この時期のコンテンツはWebアプリで、月額タイプであった。その後、2011年6月期頃から2014年6月期にかけてグリー<3632>向けの売上高が急伸している。グリーはいわゆるソーシャル専業プラットフォーム(PF)を提供する会社であり、コンテンツはWebアプリという点では同じでも、課金システムにおいては月額からF2Pへと大きく変わった。キャリア向けからソーシャル専業PF向けへの移行は、モバイルコンテンツ・サプライヤーにとっての最初のメジャーな転換点であったが、同社はその壁を順調に乗り越えることができた。

モバイルコンテンツ・サプライヤーにとっての2回目の転換点はいわゆるスマートフォン対応だ。コンテンツはスマートフォン対応によって、Webアプリからネイティブアプリ、もしくはガワネイティブアプリへと大きく変化した。課金システムの点ではF2Pが主体でソーシャル専業PFの時代と同様だが、Webアプリのエンジニアとネイティブアプリのエンジニアでは陸上選手と水泳選手との差にも例えられるほど大きな違いがあるため、人材獲得や体制整備の面でも難点は多かった。しかし、同社はスマートフォン対応については苦戦しつつも実直にやり遂げ、その成果はApple Inc.とグーグル・ペイメント(株)の2社への売上高の急増にも顕著に表れている。

このように、一口にモバイルコンテンツと言ってもモバイル端末の技術的な進歩やユーザーニーズの変化などによって、その中身は大きな改革を迫られてきた。そうしたハードルを越えることができずに事業戦略の変更・縮小あるいは撤退を迫られた企業も少なくない中で、同社はそうしたハードルを越えることに成功し、プラットフォームやアプリの複数世代をまたいで、恋愛ドラマアプリというジャンルにおいてトップ企業としての地位を維持している。この事実こそが同社の強さを明白に物語っている。

総務省の調査によれば2013年末のスマートフォンの世帯普及率は62.6%であった。2015年半ばの現在ではこの値は一段と上昇していることは間違いない。また、同社の顧客層である20~40代女性のスマートフォン保有率は、世帯普及率の値よりもさらに高いと推測される。そうした状況に合わせて、同社では、F2PタイプのOS系アプリ(App StoreやGoogle Playからダウンロードして利用するタイプのアプリ)に注力して新タイトルの開発を進めている。

(執筆:フィスコ客員アナリスト 浅川 裕之)

《HN》

 提供:フィスコ

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