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【特集】千原靖弘【中国株】秋の相場観特集_03 /理屈が通じない上海市場、カギは投資家心理と政府の方針

千原靖弘氏
内藤証券中国部・情報統括課長 千原靖弘氏

 9月に入ってからの上海総合指数は、概ね3000~3200ポイントで推移した。3000ポイントを割り込んだところでは中国政府の買い支えがあり、3200ポイントに回復すると、戻り売りに押されるという展開だった。上海と深センを合計した日々の売買代金は、3712億~8449億元で推移。5月28日に記録した2兆4206億元を大きく下回っている。

 すでに上海市場に割高感はない。9月30日のPERをみると、上海A株市場が15.1倍、東証1部が16.2倍。時価総額の大きな四大国有銀行株は、配当利回りが5.0~6.0%、PERが5.50~6.21倍という水準だ。日本の銀行株と比べても、かなり割安といえよう。だが、中国政府以外の買い手は、なかなか現れない。

 上海市場では他の市場で重視される理論が通用しない。割安でも売られるし、割高でも買われる。投資家は理論的な行動をとらず、理屈とかけ離れた現実が生まれる。理屈が通用しない原因は主に2つ。その1つは理論的な投資行動をとる機関投資家の売買比率が小さいことにある。売買の8割以上は、膨大な数の個人投資家によるものであり、他国の市場ではみられない特徴だ。

 もう一つは1990年に誕生した上海市場が、最初から電子化された高度なインフラを備えていたことにある。このため中国本土での株式売買は一人ひとりが端末を操作するという方法が主流であり、日本のような証券会社の営業活動はほとんどない。証券会社の営業活動には、投資教育の普及という社会的効果があるのだが、これが中国本土にはなかったため、口コミ情報や政府の方針を伝える報道を手がかりに株式を売買する土壌が醸成された。

 こうして上海市場は9000万人を超える投資家の群集心理と政府の思惑が支配するマーケットとなった。つまり逆に見れば、投資家心理と政府の方針こそ、上海市場を読み解くカギなのだ。中国本土の投資家は8月末時点で約9400万人に上り、その18%の約1700万人が過去5カ月以内に株式投資を始めた人々なのだが、初めて痛手をこうむって撤退の機会をうかがっており、これが商いの低迷や戻り売りの出やすさにつながっている。こうした投資家心理を改善するのは容易ではなく、今のところ有望な方策は打ち出されていない。

 一方、政府の方針だが、来年からの第13次5カ年計画に向け、10月に中国共産党の重要会議(五中全会)が開かれる。こうした節目の年であるうえ、経済環境が厳しいことから、年末に向けて政策への期待感が高まり、株式市場でも材料視されよう。膨大な数の投資家による売りが一巡すれば、政策を手掛かりに株価が持ち直す可能性もあろう。

<プロフィール>

中国株情報の発信に10年余り携わる。大学院修了後、上海市の復旦大学に2年間留学。ニュース配信会社の駐在員として広東省広州市に1年間赴任。中国の現地事情や社会・文化にも詳しい。

編集企画:株経通信(株式会社みんかぶ)   【秋の相場観】特集より

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