市場ニュース

戻る
 

【市況】【冨田康夫のマーケット・トレンド】


「ガイダンスリスクをどう乗り越えるか」

日刊株式経済新聞 編集長
冨田康夫

●アナリスト予想を下回り売られる

 5月連休明けから15年3月期決算と16年3月期業績見通しの発表が佳境を迎える。

 現在、個人投資家が最も関心を寄せているのは、いったん2万円を超えた日経平均株価が年後半にかけてどう推移し、そのなかで個別銘柄の物色動向はどうなるのかということだろう。

 そこで懸念されるのが、ガイダンスリスク(会社側の慎重な業績見通しを嫌気して株価が下落するリスク)への対応だ。

 特に、今年度は全業種(除く金融)の平均でアナリスト予想の連結営業利益の増益率が10~15%増となっているのに対して、輸出関連の主要企業を中心に会社側は前期並みか小幅減益という保守的な見通しが多くなるのではとの警戒感が強まっている。

 4月30日には、会社側の今期業績見通しが「アナリスト予想を下回る」という理由から、多くの主力銘柄が売られ、日経平均株価は500円を超える大幅安に見舞われた。

 既に16年3月期の業績見通しを発表した主要企業のなかで、営業減益予想を公表したケースが目立っており、コマツ <6301> 、ダイハツ <7262> 、OLC <4661> といった銘柄に売りが先行した。

●円安、原油安の追い風が凪状態に

 特に今回の業績見通しについて、ガイダンスリスクの影響を受けて株価が下落するのではという警戒感が強まっているのには、いくつかの背景がある。

 (1)日経平均株価が直近2ヵ月間で2000円を超える急ピッチな上昇をみせて、15年ぶりに2万台を回復して目先的な達成感があり、当然の一服場面となっても不思議はない、(2)16年3月期の業績見通しについて、アナリスト・コンセンサス予想を控えめな会社側見通しが大きく下回ることは、ある程度は織り込んでいても、減益予想や伸び悩みが現実のものになると株価が下落する可能性が高い、(3)これまで株価上昇を下支えしてきた外国為替市場での円安進行、原油価格下落傾向という二つの強烈な追い風が今後は期待できない――などが取りざたされている。

 事前の市場予想とのカイ離で株価が機械的に売買されるケースも多い決算シーズン固有の動き。そして、それに乗じた短期筋の動きが株価の振れをより大きくさせていることも事実だ。

 また、期初の会社計画は控え目なものにとどまる傾向が強いと分かっていても、全体業績の見通しが、減益や低い伸びにとどまることとなれば、業績期待で押し上げられてきたマーケットが反転することへの警戒を強め、目先の利益を確定する動きが強まる可能性は否定できない。

●2ケタ減益予想のファナックが買われる

 こうしたなかで、16年3月期の連結営業利益で2ケタ減益予想ながら、株価が上昇したケースがある。ファナック <6954> がそれで、4月28日の市場で一時、前日比1775円高の2万8575円まで買い進まれ、上場来高値を更新した。

 同社は27日取引終了後、16年3月期の連結業績予想は、売上高6801億円(前期比6.8%減)、営業利益2646億円(同11.2%減)と慎重に見積もった。

 しかし同時に、株主還元方針について、配当性向30%を60%に引き上げ、今後5年間、平均総還元性向80%の範囲内で、機動的に自己株式を取得すると発表。自己株式の保有は発行済み株式総数の5%を上限とし、超過する部分は原則として毎期消却すると明らかにしている。市場はこの株主還元策を、減益予想以上に評価した格好だ。

 そこで、ガイダンスリスクを乗り切る一つのヒントとして注目したいのが、ファナック同様に自社株買いによる株式価値の向上や、中期的な視野に立った増配計画など積極的な株主還元策を持続する姿勢を打ち出している企業だ。

●株主還元策積極化銘柄に注目

 富士フイルム <4901> は、医療機器と医薬品で構成するヘルスケア、液晶材料や電子材料で構成する高機能材料、傘下の富士ゼロックスによる事務機器を中核として構造改革を進めている。

 2014年11月公表の14~16年度の中期経営計画で、配当と自社株買いを合わせ3ヵ年で総額2000億円強の株主還元を実施することを公表。

 キーエンス <6861> は、自動制御機器、計測機器、情報機器、光学顕微鏡・ 電子顕微鏡などを手掛ける。同社は15年3月期上期決算で、年間の1株当たり配当を60円から200円まで増配することを発表している。

 カシオ <6952> は、「Gショック」などの腕時計や、電子辞書、デジカメなどを手掛ける。同社は、配当総額約80億円、実施済みの自社株買いを合わせた株主配分を約200億円とし、前期の予想純利益(230億円)の約90%を株主に還元する計画。

 サンゲツ <8130> は、今後3年間、純利益の100%以上の株主配分(配当・自社株買い)を計画している。青山商 <8219> は18年3月期を最終年度とする中期経営計画で、連結総還元性向130%を目処とした配当と自己株式取得を実施する方針を公表している。

2015年4月30日 記

情報提供:日刊株式経済新聞

株探ニュース

株探からのお知らせ

    日経平均