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中村潤一の相場スクランブル 「日銀緩和で不動産株“反撃高”へ」


株式経済新聞 副編集長 中村潤一

 いくつかの要素が複雑に絡み合い、カメレオンのごとく相場の強弱のコントラストが日々変遷していく。今の東京市場はそういったイメージがあります。週明け(7月11日)以降の日経平均株価の急反騰劇に溜飲を下げた投資家も多いと思われますが、買い戻しが主軸で、このペースで上昇トレンドが続くとは考えづらいところです。

●ボラティリティの高さと方向性は別物

 ボラティリティは高いけれど、方向性がはっきりしないのです。買い方の立場になれば戦々恐々、しかし売り方も一歩間違えれば奈落という地合いであり、短期の回転売買に特化した投資家であっても、機敏にうまく立ち回らなければ報われにくい地合いといえるでしょう。ポイントは毎回繰り返しになりますが、為替の動向。今はリスクオフの巻き戻しで円安に傾いていますが、現状を見る限りドル円で110円ラインを突破するのは、そうたやすいことではありません。とすれば、日経平均の1万7000円ライン突破も容易なシナリオとはいえないでしょう。

 日本や欧州など長期国債のマイナス金利が珍しくなくなり、世界的に異常な低金利環境が常態化するなかで、それでも債券に資金が流れ続ける。これはリスク回避の潮流を裏付けるものですが、では株式は見送り対象かといえば、決してそんなことはなく、米国株市場を見れば一目瞭然、S&P500に続きNYダウも遂に史上最高値を更新し青空圏に突入したという現実があります。

 やや古い言い方をすれば資金はジャブジャブの状態で、リーマン・ショックのような“キャッシュが最強”というデフレの極致に引き込まれることは、当面は想定し得ないのです。過剰流動性は局地的なバブルを形成するよりなく、その場所がどこなのか、投資の勘所としては、あらゆるリスクアセットを対象に、資金が流れ込む入り江をいかに人より早く見つけていくか、という勝負にも見えます。

●需要がなければマイナス金利は毒薬

 バーナンキ前FRB議長が週明けの11日に日銀を訪問、翌12日には安倍首相と会談したことが報じられています。あくまで“前FRB議長”ですから、ともすれば話のネタで終わってしまいそうなところですが、バーナンキ氏といえば景気刺激策としてヘリコプターから紙幣をばらまくような大胆な金融緩和策が有効との理論を是とすることで知られ、任期中はQE(量的緩和)を駆使して米国経済の難しい舵取りを完遂した人物。このタイミングで、「ヘリコプター・ベン」の異名をとるバーナンキ氏の訪問には少なからぬインパクトがあります。

 安倍首相との会談では、日本経済がデフレから脱却するための方策、そしてアベノミクスの主眼である持続的成長を続けるための必要事項について意見を交わしたもようですが、推察するまでもなくその答えに相当する部分は明白です。

 デフレ脱却に金融緩和は必要ですが、それだけでは需要の喚起にはなりません。需要がなければ資金を貸す先は確保できないわけですから、どんなに低金利環境であっても意味がないわけです。1月下旬の決定会合で黒田総裁が踏み込んだマイナス金利政策が、劇薬の副作用の部分だけがクローズアップされてしまった理由はそこにあります。

●追加緩和を見送る理由なし

 したがって、超低金利環境に呼応した政府の選択肢としては財政出動も規制緩和も厭わずに、不退転の構えで民間の活力を引き出す方策を打ち出すこと、これに尽きるのです。アベノミクスが機能しなかった理由は、金融政策だけに頼り、需要を喚起する対策が掛け声だけに終わってしまってきたことにあります。金融緩和と企業の投資意欲、この両輪が揃わない限り前には進めません。

 正直、今回のバーナンキ氏の訪問にどれほどの意味があるのかは未知数ですが、政府・日銀にとってデフレ脱却に向けた“本気の政策発動”を暗示しているようにも思われます。先陣を切るのは今月28、29日の決定会合。「ヘリコプターマネー」が言葉として一人歩きしてしまっているような部分もありますが、マーケットが最も望んでいるのは、国債買い入れではなく、ETFの大幅な買い入れ枠拡大というかたちでの供給。これ以上のマイナス金利政策は当然ながら封印するべきです。

 ただ、形はどうあれ展望リポートが公表される次回会合で追加緩和の可能性は高いとみています。6月の日銀短観では中小企業の景況感は悪化。それに英国のEU離脱決定に伴う円高が追い打ちをかけており、物価上昇率2%の命題もクリアされる気配すらなしという状況にあって、見送る理由は見当たりません。

●底値圏にある不動産株が有力

 個別銘柄戦略としてここで狙うべきは、出遅れ感が際立つ不動産セクターが有望。いうまでもなく緩和トレードの代表格ですが、それ以外にも買い有利を裏付ける条件が揃っています。

 為替相場は不確実性が高く、ここからの円安を読み切れないのであれば外部要因として重荷、7月下旬から3月決算企業の第1四半期決算発表が始まることも考慮すれば、輸出株は当面は触りにくいと考えます。

 対して不動産株は内需の強みがあり、チャートは底値圏の銘柄が多い。昨年夏場以降の株価の軟化は日経平均と比較しても顕著であり、需給悪は残るものの全体相場の仕切り直し場面では、売られ過ぎたことが水準訂正余地の大きさにつながります。ファンダメンタルズ面からはここまで売られる要素は乏しいのです。その証拠にREIT指数は好調で、これまで現物株市場とのカイ離が目立っていましたが、今後はこのギャップが縮小する方向になると思います。中長期投資にも耐えうると思いますが、投資のタイミングとしては、金融政策決定会合の前に一回は手仕舞うつもりで機敏に対応するのが実践的でしょう。

 ブレグジット第2波として英国の不動産価格の下落を背景とした解約急増で不動産ファンド凍結という事態がセンセーショナルに伝えられましたが、これを受けての株価下落は底値圏でのダメ押しといってもよく、裏を返せばここは絶好の買い場提供と考えます。

 まず、業界の双璧である三井不動産 <8801> と三菱地所 <8802> は王道銘柄として注目。また、東急電鉄グループでビル賃貸を主力に総合不動産業を展開する東急不動産ホールディングス <3289> は駅前再開発のテーマにも乗り、上値妙味が大きそうです。マンション販売戸数は足もと減少傾向にあるものの、リノベーションマンションへの展開で見直し余地がある大京 <8840> も低位株ならではの魅力を内包。このほか、中小型で値動きの早い不動産流動化関連としてはサンフロンティア不動産 <8934> 、レーサム <8890> [JQ]、サムティ <3244> などがマークされます。

(7月13日記、隔週水曜日掲載)


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