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【市況】【冨田康夫のマーケット・トレンド】


「TPPは株式市場でも想定以上の大テーマに」

日刊株式経済新聞 編集長
冨田康夫

●GWの訪米控え、日米協議は大詰めに

 安倍晋三首相は12日の衆院本会議で、第3次内閣発足後初となる施政方針演説を行った。そのなかで、最終局面を迎えている環太平洋経済連携協定(TPP)交渉について「米国とともに交渉をリードし、早期の交渉妥結を目指す」と強調した。

 安倍首相は、4月下旬からの大型連休中の訪米を念頭に、日程の調整に入っている。したがって、今後3月には日米協議の大筋合意に向けて大詰めを迎えることになる。

 米国も、今年の前半(夏まで)をTPP全体の交渉期限ととらえている。これは、来年の米大統領選に向けてその準備が活発化する秋までに、オバマ大統領が数少ない得点として確保しておきたいのがTPP交渉の成立だからだ。

 これまで、株式市場でも再三にわたって相場テーマとして取りざたされてきたTPPだが、その背景にある"大がかりな農業改革"の与えるさまざまな産業界へのインパクトを考慮すると、想定以上に波及効果の広がる大きなテーマとなる可能性がある。

 農業改革について安倍首相は「60年ぶりの農協改革を断行する。農協法に基づく現行の中央会制度を廃止し、全国中央会は一般社団法人に移行する」と強調。その一方で、農業委員会制度にも踏み込み、「耕作放棄地の解消、農地の集積を一層加速する」とも述べている。

 懸案事項となっていた牛肉・豚肉関税については、日本が大幅に引き下げる方向で合意に近づいていることが明らかになっている。今後、株式市場では交渉の進展に伴ってTPP参加に伴う農業振興策で恩恵を受ける関連銘柄に関心が集まりそうだ。

 現状、日本が輸入牛肉や豚肉に課する関税を今後10~15年かけて引き下げる一方で、米国は完成車や自動車部品に課す輸入関税を撤廃する方向で一致点を見出そうとしている。

 また、コメについては、日本が米国産米向けに特別輸入枠(年最大5万トン程度)を設けることで決着をつける方向にある。ただ、このコメの特別枠設定は、これまで「コメは聖域」とされてきただけに、農家からの猛反対が予想される。

 いずれにしても3月中に日米間で一定の合意に漕ぎ着ければ、他の参加国との調整も含めて、夏に向けて事態が一気に加速する可能性もある。

●農業政策強化で恩恵受ける銘柄に注目

 日本がTPPに参加することになれば、国内市場に海外の安価な農林水産品が大量に流入することで、国内市場中心の農業団体などは「国内の農林水産業は壊滅する」と懸念しており、農業政策の強化が緊急課題となっている。農林水産省は(1)農産物の輸出拡大、(2)農商工連携の強化、(3)農地の有効活用――で競争力を高めるとしている。
 
 こうした国内農家の大規模化・効率化推進でメリットが予想されるのが、クボタ <6326> 、井関農 <6310> などの農業機械メーカーだ。また、より効率的に収穫量を上げるためには、クミアイ化 <4996> 、日農薬 <4997>、 イハラケミ <4989> などの農薬メーカーや、肥料製造大手のコープケミ <4003> 、種苗関連では、サカタタネ <1377> 、カネコ種 <1376> [JQ]にも注目。

 長期的な視野に立てば、食肉、小麦、バターなど原材料の輸入コストの低減が見込める食品株にも注目だ。現在、農産物の輸入に掛かる関税はコメ=778%、バター=360%、小麦=252%、牛肉=38.5%(いずれも従価税換算値)など極めて高い。これが撤廃あるいは徐々に軽減されれば、原材料を輸入する企業にとっては大きなメリットとなる。

 山パン <2212> 、日清食HD <2897> 、日ハム <2282> 、スターゼン <8043> 、ゼンショHD <7550> などに恩恵が予想される。

 さらに、大規模植物工場「TSファーム」のキユーピー <2809> 、自社ブランドの「こくみトマト」を太陽光発電利用型の植物工場で生産するカゴメ <2811> 、また、宮城県内に植物工場を建設してハーブ栽培に乗り出したセコム <9735> 、水菜、レタスなどを生産し、自社店舗で使用している大戸屋HD <2705> [JQ]も見逃せない。

2015年2月19日 記

情報提供:日刊株式経済新聞


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