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上昇基調強めるインドルピー【フィスコ・コラム】


インドで4月から5月にかけて実施される総選挙に向け、同国の通貨ルピーが騰勢を強めています。新興国通貨のなかでも昨年夏のトルコショック前の水準に戻すなど、少し前まで不人気とみられていたモディ首相の支持率回復と連動しているようです。


新興国通貨は昨年夏、トルコショックをきっかけに急激に値を下げました。アルゼンチンペソは予断を許さない状況が続いていますが、米長期金利の低下のほか原油価格の底打ち後の安定推移、連邦準備制度理事会(FRB)の引き締め方針の緩和などを背景に、ほとんどの新興国通貨は持ち直しています。なかでもルピーが1ドル=74ルピー台から急落前の水準まで戻した値動きはひと際目を引きます。


最近のインドの国内総生産(GDP)をみると、昨年4-6月期の前年比+8.2%から減速したとはいえ、直近の10-12月期は+6.6%と中国に匹敵する成長率で世界経済をけん引しています。やはり直接投資の増大が寄与しているとみられます。世界銀行が毎年まとめているビジネス環境ランキング(2019年版)で、インドは190カ国中77位と前年の100位から順位を上げ、政府の目標である50位以内は射程圏内に入りました。


モディ政権に対しては、インドを投資対象国として魅力を引き上げたと国際金融市場から評価されています。反面、国内では就業人口の半数を占める農業従事者を中心に批判が高まっていたのも事実です。特に農産品価格の下落が貧困の改善を妨げています。昨年12月に辞任したパテル前中銀総裁は、貧困層を対象とした医療制度「モディケア」はばらまきと政権を公然と非難していました。

安定した高支持率を維持しているとみられてきたモディ政権は、そうした貧困層からの根強い批判で退潮傾向が鮮明になっていました。昨年11月から12月にかけて行われた5州での議会選で与党インド人民党(BJP)は国政最大野党のインド国民会議(INC)に全敗を喫します。INCは、かつてのネルーなどが所属していた国民政党。ソニア・ガンディー元首相を母親に持つラルフ・ガンディー氏が現在党首を務め、党勢を回復させています。


2月26日のパキスタン北東部のバラコットにあるテロ組織拠点へのインド軍の空爆は、そうしたタイミングで実施されました。モディ首相が選挙戦を優位に進めるために攻撃したかどうかは不明ですが、直後の調査で同首相の支持率は60%台に上昇しました。ただ、足元では支持率がすでに下がり始めており、選挙まで空爆の「効果」は持続できない可能性が出ています。


有権者数が7億人を超えるインドの国政選挙は民主主義国家では最大の規模。5年に1度の総選挙は今年4月から5月にかけて7回に分けて行われます。足元ではモディ首相自身が推進した政策による財政赤字の拡大がインド経済では最大の懸念材料となり、不安定な国債利回りがそれを反映しています。選挙は投票する人の数が多いほど予測しにくく、目先のルピーの上昇はいったん収束しそうです。

(吉池 威)

※あくまでも筆者の個人的な見解であり、弊社の見解を代表するものではありません。

《SK》

 提供:フィスコ

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