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武者陵司 「嵐の中、日本株式の時代が始まる」 <新春特別企画 第3弾>


武者陵司(株式会社武者リサーチ 代表)

(1)日本株式の新時代に

 新天皇の即位と東京オリンピックなどのイベントが、日本人気を内外で際立たせていくだろう。いよいよ日本株の時代の幕開けになると期待される。依然、株式市場を覆う霧が晴れないが、長期上昇相場が続いている、との見方を変える必要はないのではないか。米金融引き締めも、米中貿易摩擦も長期景気拡大を止めないことが確認され、市場は安定化するだろう。

 近代日本の株価を振り返ると、昭和の後半の時代1949年から1989年の40年間で日経平均株価は約400倍に値上がりした(年率16%)。しかし、平成天皇が即位された1989年1月に日経平均は3万円、平成天皇が退位される今年に3万円になっているとしても30年間で横ばいである。この30年間に米国株式が10倍になったことと比較すると、いかに日本株式が引き離されてきたかが分かる。しかし、新しい天皇の時代、年率10%でたどっていけば、15年後の2034年には日経平均は10万円に到達する。世界的な株価上昇はここ40年で年率ほぼ10%なので、そのペースでいけば、日経平均は10万円になるのである。

●平成が育んだ将来成長の条件

 平成は表面的には困難な時代であったが、日本の将来を保証する二つの決定的優位性を育んだ時代であった。

 その第一は、国際分業上の優位性である。日本企業は技術・品質で無数のオンリーワン領域を確保した。国際分業が進展し各国が相互依存を強めていくとき、大切なものは希少性である。希少だから高く売れ儲かり、国民生活と経済、投資が報われる。絶好調の日本企業業績は、この希少性に支えられている、といえる。

 平成の時代に日本が巡り合った二つ目の優位性は、日本の地政学的立場である。世界覇権をめぐって米中対決が本格化しつつある中、日本が米国につくか中国につくかで米中の覇権争いの帰趨が決まることは明白、米国にとって日本はイギリスやイスラエルなどとの伝統的同盟国よりも重要になってきている。中国に対抗できる強い日本経済は米国国益に直結する。近代日本の盛衰を決定づけてきたのは地政学環境、つまり日本が世界の覇権国とどのような関係性にあったのかであるが、それがかつてないほど有利化しているのだ。

 今年は日本株式人気が高まると思われる。第一に日本企業の稼ぐモデル確立により高収益持続が予想される。第二に不動産市況に先導されたデフレ脱却がはっきりし、利息ゼロの預金国債から株式へ、大規模の資金シフトが起きると考えられる。第三に世界中で日本に対する需要が高まっている。必須のハイテクコア技術、新エネ車技術、高品質消費財、良質な観光資源等々が、米中新冷戦の下で、ますますクローズアップされるだろう。第四に日本企業の好財務体質が、金融緩和環境の変化、国際流動性タイト化の中で、評価されてくるだろう。それはM&A余力、R&D余力、自社株買い余力等々、多様な展開力を日本企業に与えると考えられる。世界で最も低レバレッジの日本企業は、それゆえ低ROEと批判されてきたが、財務健全性が日本株評価のポイントとなるのではないか。

(2)景気悲観論は時期尚早

 長期株価上昇と戦後最長景気拡大を終わらせるほどのマグニチュードの要因は二つ、1.米中貿易戦争、2.米国金融引き締めだが、まだまだ景気悲観論は時期尚早であろう。

●いずれ米中の妥協点が見えてくる

 まず、米国の対中要求5項目は不公正行為に対するもので、中国は要求を全面的に受け入れざるを得ず、追加関税は回避される公算大。中国の半導体国産化率は8%に過ぎず、過半の供給を米国企業に頼っている。他方、米国もスマホ、パソコンなどの大半のハイテク製品を中国から輸入しており、両国ともに相互依存関係を崩すことはできない。米国は対中圧力を最先端ハイテクなどに選択的に行わざるを得ず、全面対決は回避されよう。

 ただ、世界の多国籍企業の中国投資が急減しつつあり、習近平政権は政治的観点からそれを打ち消さざるを得ず、景気てこ入れに注力している。中国は民間企業債務の増加、ドル調達難などの困難はあるが、当面財政と金融緩和出動の余地は大きい。

 以上から米中貿易戦争が世界リセッションの引き金を引く可能性は当面ないだろう。後述するように、2019年国防権限法は、最悪の場合、米国が標的にするファーウェイなどの中国企業とのドル取引を禁止するとの解釈すら可能であり、それが発動されれば当該企業は即破綻し、世界金融危機の引き金が引かれる、とのシナリオがあり得る。しかし、トランプ政権がそこまで押し込むとは考えられない。

●流動性不安などない、FRBには大きな裁量力がある

 あと一つの懸念、米国の金利上昇であるが、金融引き締めにおいてFRB(米連邦準備制度理事会)は大きな裁量の余地を持っており、景気を腰折れさせるとは考えられない。2018年12月初めのパウエル議長の講演以降、米国が利上げサイクルの終盤に近づいていることは明らか。その理由はインフレが加速しないからである。3%近い賃金上昇は続いているが、生産性の上昇により企業の価格引き上げプレッシャーは高くはない。「好況」「低インフレ」「低金利」という組み合わせはあまりにも好都合すぎるが、この好都合すぎる現実がFRBの裁量権を著しく大きくしている。

 12月のFOMC(連邦公開市場委員会)の直前に盛り上がった金融政策の転換期待が裏切られ、市場は大幅な株価下落、金利低下とドル安で反応した。FOMC直前に、それまでQE(量的緩和)を批判してきたウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)紙は社説で、ハト派への転換を主張し、マッチポンプ的役割を果たした。これに対してパウエル議長は景気に自信を見せることでその期待を一蹴した形であるが、どちらにしても小さな話である。インフレリスクが封印されている現状では、必要とあらば利上げの停止または利下げ、QT(バランスシートの圧縮)停止またはQE(バランスシートの再拡大)となんでも可能である。上がったとはいえ3%前後の現在の長期金利水準は名目経済成長率6%に比べるとまだ半分、金利が景気のブレーキになるには程遠い水準である。懸念される信用循環の暗転が起きる条件が整わない。1990~91年、2001年、2007~2009年などの過去のリセッション時と比較し金利水準が著しく低いことがわかろう。

●市場は新年、再度アップサイドを試すだろう

 米中貿易戦争に関する不透明さが消えるのに伴い、年初の株安が癒され、ドルは緩やかに強くなっていくのではないか。足元、株価急落にも影響されて米国景気指標の軟化が見られ始めた。FRBはアニマルスピリットを喚起するために、一段と踏み込んだ金融政策、利上げの停止とバランスシート圧縮の棚上げを打ち出すかもしれない。それは一時的にドル安をもたらすが、株式市場がそれを号砲にリスクテイクに向かうとドル高トレンドが復帰するだろう。

●ますます鮮明、長期ドル高趨勢

 長期ドル高の二つの力を認識しておくべきだろう。

 第一は世界経済における最後の切り札、ドルの威光が日増しに高まっていることである。イラン、北朝鮮、そしていずれ中国が深刻なドル不安に直面することになるだろう。ひとたびアメリカと対決しドル使用が禁止されれば、経済は干上がってしまう、という当たり前の現実を思い知らせる事態が、トランプ政権の国際政策において頻発している。

 第二にドルは米国の強い産業競争力と経常収支の改善を通して、実態的にも強化されている。国際信用や国際投資に占めるドル比率が高まり、ドル需要を支えている。財政赤字増加による金利上昇圧力は限定的であろう。

(3)注視すべき米中新冷戦下のリスク、中国のドル調達難

 ペンス米副大統領のスピーチ以降、米中新冷戦が始まったが、これは不可逆的なものであろう。その中核法が昨年8月に成立した2019年国防権限法である。米国の中国企業の排除、封じ込めの意思は明らかである。特に2019年国防権限法が中国企業によるドル調達難を引き起こす可能性には留意すべきかもしれない。

●強大な潜在的制裁力

 国防権限法の柱は、1.従来からの外国投資規制(Foreign Investment Risk Review Modernization Act)と、輸出管理規制(Export Control Act)が一本化されたこと、2.指定企業(問題中国企業5社+米国防省が中国政府の所有、支配、関係下にあると判断した企業)との米国政府機関との取引(機器の購入やサービスの利用)禁止、の二つである。

 市場の懸念は、「2.」の範囲と権限が著しく大きいことであろう。第一に、制裁対象企業は米国政府の裁量次第でありどんどん広がり得る。第二に、指定された企業(*)と取引(機器の購入やサービスを利用)している第三の企業も制裁対象になる(二次制裁)。第三に、制裁の手段は際限なく広がる可能性がある。結局指定された企業はグローバルビジネスから締め出されざるを得ないのではないか。

(*)指定された企業
1.ファーウェイ、2.ZTE、3.ハイテラ・コミュニケーションズ(海能達通信:通信機メーカー)、4.杭州ハイテクビジョン・デジタルテクノロジー(半国営世界最大の監視カメラメーカー)、5.浙江大華技術(民営監視カメラメーカー)、6.国防省等が中国政府の「所有/支配/関係」下にあると判断した企業

 二次制裁の条項、つまりファーウェイなど指定された企業だけではなくそのような企業と取引のある第三の企業も、米国政府機関との取引が停止されるとの条項がある。これにより非米企業であってもファーウェイなど指定された企業との取引(機器の購入やサービスの利用)はできなくなる。

●最後の手段、ドル決済の遮断

 また、取引が禁止される米国政府機関の範囲は広く、場合によっては米国金融機関との取引ができなくなり、ドル決済が停止されることすらあり得る。米国財務省は敵対国に対する制裁対象としてSDNリスト(Special Designated Nationals )というブラックリストを設けているが、その制裁項目の中には米国・国際金融機関との取引停止、ドル送金など外為取引の禁止、米国内資産凍結などの劇薬も含まれている。国防権限法で指定された企業に対して、SDNリストに適用される制裁が準用されないとは限らない。

 国防権限法の施行期限は、2段階に分かれる。指定された企業と米国政府機関との取引禁止は2019年8月13日から、指定された企業と取引をしている第三の企業との米国政府機関との取引禁止は2020年8月13日からとされている。

●ファーウェイとの関係絶つ国際銀行

 この環境下でファーウェイの金融パートナーであったスタンダード・チャータード銀行がHSBCに続きファーウェイとの取引を打ち切る決断をした。未だシティーグループだけがファーウェイと取引を続けているが、当局の出方を注目している、とWSJ紙は伝えている(2018年12月21日付)。

 ドル調達難になることを想定して、中国企業による資金調達が活発化している。米国でのIPOが大きく増加している。2018年の米国上場中国企業は33社、調達額は90億ドルと2017年の17件から大きく増加した、とフィナンシャル・タイムズ(FT)紙は伝えている(2018年12月27日付)。また、中国人による米国不動産の売却など、資産処分も増加している。2018年第3四半期の中国人による米国不動産投資は10.5億ドルの売却(購入は2.3億ドル)と大幅な売り越しになったとWSJ紙(2018年12月5日付)は伝えている。中国企業で先を見越したドル調達が始まっていることをうかがわせる。米中貿易戦争下で、トランプ氏がFRBパウエル議長の利上げを非難した背景には、そうしたドル調達不安が進行することを念頭に置いているのかもしれない。

 国際的債務の積み上がりが、次の信用循環の下方屈折の原因になると心配されているが、債務の積み上がりは中国に集中している。そして、中国のクレジットバブルの崩壊こそが世界経済リセッションのリスクである。中国企業のドル調達難が深刻化しないかどうか、注視したい。

(2019年1月1日記  武者リサーチ 「ストラテジーブレティン217号」を転載)


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